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イ歌謡曲 > Vol.45 パディ
PADI - パディ-
PADIはカラオケでは流行らないだろう。ボールちゃん(Bola:体型が)と呼ばれているファドリは、ファルセットからシャウトまで軽く歌っているように聴こえるが、ファドリのように歌うのはとても一般人では無理だ。ズバ抜けた歌唱力や演奏テクを持ちながらも、控え目でシンプルにまとめられたPADI独特の洗練された音世界が、大学生や知識人だけでなく、プロ・ミュージシャンの間でも絶大な支持を得ている。「アイルランド音楽に影響を受けた」というリーダーのピユが創り出すサウンドと、ファドリのアンニュイで芯が強く、「内面」に向かって渦を巻くようなボーカルが特徴的。 ついつい個性の強さがてんこ盛りになりすぎて、一枚全部聴き通すのが辛いインドネシアン・ロックが多い中で(そこがインドネシアン・ロックの味でもあるのだが)、彼等の音ならストレス無く日本の日常生活にもなじめそう。最近のPADIのメンバーは他のミュージシャンとのセッションに積極的に参加したり、他のアーティストに曲を提供するなど、バンドの枠を超えた試みにも意欲的に挑戦している。2004年末のアチェの津波の被災者のために企画されたトリビュート・コンピ盤「Kita Untuk Mereka -Indonesian Voice-」にもPADIとして参加したのは記憶に新しい。現在2005年4月発売予定の4枚目のアルバムをレコ−ディング中 。
ディスコグラフィー(ベスト版含む)
Lain Dunia
←Lain Dunia (1999年8月リリース)

「これがデビューアルバム?」という完成度と安定感のある1枚。シングルヒットはスケ−ル感のあるリフが耳に残る「Begitu Indah」、ジャズをとりいれて、とてもスタイリッシュな「Seperti Kekasihku」。
Sesuatu Yang Tertunda
←Sesuatu Yang Tertunda (2001年6月リリース)

170万枚!を突破する記録的大ヒットとなった名盤。シングルヒットはうねるようなベースラインで始まる「Bayangkanlah」、印象的なイントロ、PADIの代表曲ともいえる「Sesuatu Yang Indah」、爽やかにとてつもなく悲しい「Kasih Tak Sampai」など多数。
最新アルバム評
Save My Soul
←Save My Soul (2003年6月リリース)

大御所ソロシンガー、イワン・ファルスをゲストに迎えた3作目。発売日の1日だけで既に50万枚が売れてしまうという大変な事に...!80年代のブリティッシュ・ニューウェイブ系のクールでスマートなスタイル。アルバムの裏に「このアルバムに入っている音はデジタルサンプリングやシンセサイザーで作られたものではなく、すべて人間の手で鳴らされています」と、自然食品の注意書き?のような事が書いてあるのは冗談ではなくて、どうやら「本気でやっている」事のようだ。(人間技じゃないような早弾きも機械じゃないよ、ギタリスト志望の坊や、絶望しないでね〜という意味ではないとは思うが...)
  収録曲ー

1. Ketakjuban:驚き
2. Hitam :漆黒
3. Rapuh :ぜい弱
4. Diatas Bumi Kita Berpijak:僕らが立つ地上
5. Cahaya Mata:目の輝き
6. Menanti Keajaiban:奇跡を待とう
7. Menjadi Bijak:賢明に
8. Sesuatu yang Tertunda:延期されたもの
9. Patah:別れ(一言)
10.Repihan Hati:もろい心
<ホソルダ・スギアルト>
個人的にはハズレ曲なし。全体の印象は80年代のブリティッシュ系ロックという印象もするが、単なるノスタルジーに終わっていない。レコーディングはベーシックをメルボルンで、JKTのホーム・スタジオでRADERを使ったHDDレコーディングセッションで詰め、ミックスをシドニーで、なぜかマスタリングJKTで完了させている。数々のスタジオを目的によって使い分ける入念な音作りで、インドネシア国産ロックの「弱点」を克服しようした意欲作だと思う。これがインドネシアン・ロックの「今」の音だとも言える。サウンド・クオリティーにうるさい日本人の耳にも違和感なく入ってくる作品に仕上がっていると思う。10曲のベーシックからミックスまでを3ヶ月足らずで終わらせていることから、彼らは創り出そうとするイメージを確実に表現できる、数少ない超テクバンドだと言える
  <蓮次郎子>
80年代UKロック味のわかったようなわかんないようなカッコよさ+インドネシアロックらしくない観念的な歌詞、2作目のアルバムを聴いたときに「インドネシアにこんなセンスのバンドがあったんだ!」とびっくりして聴き倒したものです。が、PADI独特のひんやりした世界は3作目に来てますます研ぎ澄まされていくよう。ファドリの、実はとんでもなく声量があるのに力が抜けまくっているようなフクザツな歌声が、状況説明抜きで感情だけを掘り下げていくフクザツな歌詞にのって物狂おしくなっていくさまに、ジョイ・ディビジョンの故イアン・カーティスを思い出した、といったら飛躍し過ぎかなあ...。ライブでは恥ずかしそうにポツポツと話すMCが超余裕の演奏と対照的でとてもチャーミングでありました。
  <キャンディー・甲山>
旅の思い出にウブドのCD屋でこのアルバムを買ったアナタ、残念でした。洋楽と間違えて空港の売店でジャケ買いしたアナタ、大正解です。陽気なアメリカンというよりは陰影もあるブリティッシュ、でも景色はもっとでっかいサウンド。それもそのはず、アルバムを仕上げているのはDEWAや前回ここで取り上げられたJAMRUDなど、インドネシア有名アーティストこぞって御用達の、オーストラリア人エンジニア・Guy Grayとシドニー・301 Studioというコンビネーション。こなれた奥行き感のある音質とラジオ・フレンドリーな楽曲群・高い演奏能力は、まさに身も蓋もなく洋楽です。80年代UKロックにかぶれて、今はiPodにU2の全アルバムを仕込んでます、というような人には迷い無くプレイリストに加えていただきたい一枚。僕は朝食のBGMにしています。
曲評
■1. Ketakjuban
<ホソルダ>PADIに限った事ではないが、カセットを試聴してから買えるインドネシアなので曲順には慎重だ。地方ではまだカセットが主流で試聴の時に次の曲にスキップできないからだ。絶対にコケられない、しかも制作サイドの思惑が一番うまく表現されてるのが1曲目となっている。そう思って聴くと分かりやすくて面白い。そんな事はどうでも良いとして、この曲はドライブしながらカーステで聴くとよさそうなスピード感のあるPadiらしい曲。アメリカンなリフがカッコイイ。

<蓮>「言いたいこと言ってごらんよ/僕を引き止めるためだけじゃなくてさ/とりあえず君にはがっかりしたよ」などとけっこう冷たく突き放したようなことをいいつつ曲調はノリのいい軽快なロックというドライな曲。

<キャンディー>一聴して直線的な80年代ロック風味、Sting meets Van Halenという路線で、のっけから盛り上げてくれます。でかい音で聞いてもあまり耳障りしないのは、さすがUK直系301 Studioのエンジニアリング。ボリューム上げてください!
■2. Hitam

<ホソルダ>スローな曲調でこのアルバム中では曲として一番メンバー全員の一体感があり完成度も高い。タイトなスネアとモジュレーションのかかったボーカル、アリの弾くトレモロのギブソンが決まって、グラムっぽい艶っぽさを出し超カッコイイ。

<蓮>U2をPADIが消化したらこうでした的な魅力全開。「漆黒の空を漂う/ずっと漂う」という苦悩を歌ってます。

<キャンディー>1曲目からの流れにU2風味のギターも加わって曲の展開はよりスリリング!じっくり聞きこむと、シンプルなアナログシンセの隠し味が効いていたりして、にくいプロダクションワークしてます。

■3. Rapuh
<ホソルダ>オーストラリアのJazzサックス奏者ロバート・バークをフューチャーしたイントロから一変してキーラナンのメローなピアノにのせてファドリーの迫ってくるような切ない歌声...。良く聴くと「胸の詰まる感じ」を出すのに限界までブレスしないで歌っている。切り貼りの連続でリップノイズを被せているどこかの歌手に聴かせてやりたい。凄い人たちですホントに...。

<蓮>愛する人を失って、悲しみと絶望でボーゼンとしているような歌をこう淡々と歌われるとより強く胸に響いてくるわけで、ライブでは観客が泣いてました。ラスト前、急に取り乱したような「何が起こっているのか分からない/まったく理解できない」の一節が耳に残る。

<キャンディー>メロージャズ風イントロで「あれれ〜?」と思わせておいて、ピアノ弾き語りに着地。と思ったらいつの間にか激しい雨のようなリズムとその後の静寂。ラストにほんの少し、カート・コバーンの霊が入ってます。
■4. Diatas Bumi Kita Berpijak
<ホソルダ>ブリッジで際だつプログレ風で神経質なヨヨのドラム、アジのパーカッション、ピユの浮き立ったコード感が絶妙なバランスでのスケールのでかいイメージ世界となって立ち現れてくる。サンプル・ループで処理するとこの揺らぎ感は出ない。ちょっとヤバイ系だけど、かなり好きな曲。

<蓮>重いパーカッションに無表情にからむファドリのボーカルや何か震えているみたいな妖しい音作りが夢に出てきそうで、1度聴いたら忘れられない印象の強さ。シングルヒットにもなっている。

<キャンディー>3曲目を受けてより印象派になっているような、風景の大きな曲。彼等の気持ち的には、もしかして2曲でひとまとめなんだろうか?コラージュ的な音の処理がとても美しい。
 
■5. Cahaya Mata 
<ホソルダ>これは一体いつの時代に来てしまったのか?という感じでほのぼのした進行にファドリーのファルセットが響く。アルバムの中では異色の一曲となっている。

<蓮>PADIにしてはコテコテのラブソング、とはいえ「君は僕の心を麻痺させ/僕の寂しさをなぐさめる」といった(インドネシア的には)まわりくどい表現なのが、彼ららしいといえばらしいです。

<キャンディー>ほのか〜に香るムラユー・ロック風味が心地良いノスタルジックな佳曲。控えめな中にも演奏能力、特にリズムセクションの腰の強さを感じます。もうちょっと聴かせて、という曲の長さにしたところが、ニクイね。
 
■6. Menanti Keajaiban  
<ホソルダ>ちょっとバックコーラスでコケたけど、ファンのために前作のようなPadi節を、という感じ。逆に平凡な売れ線ポップ(失礼)に聴こえてしまうのは、Padi的なポップスが定着した証拠?

<蓮>「どんなに長い間心の輝きを置き去りにしているだろう/魂がそこになくても僕は笑えるよ/」とてもいい歌詞なのだが、PADIの歌詞は状況説明なしで感情を描写するものが多く、乏しい語彙力を駆使してみたところで、彼ら独特の微妙なニュアンスを日本語で伝えるのはとてもムリっす。

<キャンディー>このアルバムでは中休みのような曲。でも捨て曲じゃないところがさすがPADIですね。アルバムをあくまで1つのストーリーとして展開させる手法は、もはや先輩格のDEWAより一歩抜きん出てるかも。
 
■7. Menjadi Bijak 
<ホソルダ>スティングの真似ではなくて「ムラユの血が通ってます」という風に練り上げられた血の通う8/6ベースのポリリズムになっていて、変拍子っぽいのにリズムがタイトなので自然にノレます。マレーシアで受けるのが分かります。とにかく演奏もコンセプトも上手くてニクい。

<蓮>この曲はいったい何拍子なのでしょうか?

<キャンディー>ライブで盛り上がりそうな曲。これもすんなり聞かせるけど、実はかなり演奏スキルを要求される変拍子ですね。オーストラリアン・ロック80年代のニオイがするのは、やはり制作スタッフの影響でしょうか?
 
■8. Sesuatu yang Tertunda 
<ホソルダ>西海岸のカントリー・ロック系のバラード風コード進行にのってアストリッドという女性(多分アイルランドや英国の民謡を歌う人)のケルト風コーラスが入るのが印象的。曲の途中からメイン・ボーカルがファドリィからイワン・ファルスに代わり、静けさの中に過激さが展開される。メッセージソングを歌い続けてきたイワンだけに、発された言葉が心にジワ〜っと染みわたってくる感じで心地良い曲。

<蓮>私の周辺では男性陣の支持が多い曲。さすがイワン・ファルス、すっと身体に入って来る貫禄の歌声です。エニグマみたいな女性のコーラスも神秘的。

<キャンディー>こりゃあ間違いなく名曲でしょう。ひと声で曲の印象を決定付けてしまう御大・Iwan Falsのヴォーカルは、不動の存在感でじっくり聴かせます。ケルト風のバックコーラスとも相まって、もうほとんどVan Morrison状態。いうことナスでリピート指定!
 
■9. Patah 
<ホソルダ>ちょっと日本人好みな?哀愁のあるヴァースのメロディーとピユの炸裂するリードギターの組み合わせが、上手く感情のゆらぎを表現しているように感じる。

<蓮>PADIの持ち味全開!といった、ある意味でキャッチーな印象の曲。分かりやすいせいかシングルヒットしました。

<キャンディー>8のような圧倒的な御大の歌声の後だとどうなるのかな?と心配したけど、なかなかどうして、ファドリ君もいい歌いっぷりじゃあーりませんか。さては実力をほのめかすための曲配置か?
 
■10.Repihan Hati 
<ホソルダ>この最後の曲と最初の曲がループして繋がるように出来ているような気がする80年代テイストのストレートな曲。しかしこのベースの刻みは人間がやる事じゃないと思う(笑)。

<蓮>聴きやすくすーっと流してしまいました。BGMによさそうな邪魔にならない、ラスト、ほほえみながら消えてゆく(古...。)曲。

<キャンディー>名曲連発の後で日常に着地するための曲、といったアルバム中での位置付けなんだろうか。ちょっとおまけで付けといたよ、という余裕の締めです。
 
2005年3月号より
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